見落としながら運転してる人がいそうなので叩かれるの覚悟で書いてみます。
コーラの競争相手はペプシではない
コカ・コーラとペプシコーラのアメリカ2大コーラ会社はコーラを中心に同じような清涼飲料水のラインナップをそろえ、世界各地で激しいマーケティング競争を繰り広げた。—コーラ戦争
コカ・コーラの「競合製品」はペプシで、ダイエットコークの「競合製品」はダイエットペプシ。だけど「競争相手」は違うかもしれない。
まず基本的だが、コーラかペプシかで迷うことは意外とない。大体は同じ自販機に置かれているジュースたちがライバルだ。コンビニの棚に並んでる他の飲み物とのパッケージ勝負だ。
でも俺が知ってるコーラの競争相手たちは別なところに隠れている。
コーラには大量のカフェインが入っている。コンピューター室でオールしてた大学二年生の頃、全品半額の自販機が近くにあったのでコーラで目を覚ましてた。しかし虫歯に悩まされた上、一本75セントしか節約してないのでは…と気づき、三年生になる頃には眠くなったら30分寝ることにしていた。
あのとき、コーラの競争相手は「30分の睡眠」だった。
コーラ缶一本飲むと三時のおやつが食べられない高血糖症の人にとって、コーラの競争相手はケーキだ。パーティに車で来た人にとって、コーラの競争相手はお酒だ。違法ダウンロードをしない若者にとって、コーラの競争相手は同じ値段のiTunesの楽曲だ。
睡眠だったり血糖値だったりアルコール濃度だったり、人は色んな制約の中で生きている。製品の競争相手はそうやって決められてしまう。
クラウドの競争相手は家賃かもしれない
First, make a product that a billion people will fall in love with and use for the rest of their lives. Second, make it easy for a single-digit percentage of them to pay you a few bucks a month once in a while. Finally, make sure your variable costs are low enough that you can make a mountain of profit if you get #1 and #2 right. —Phil Libin, CEO Evernote
「人々が一生使うような素晴らしい商品を作り、それを毎月課金するだけだ。」そう言い切ったのはEvernote CEOのPhil Libin氏。EvernoteやDropboxといったコンシューマー向けのクラウドはみんなフリーミアム号に乗ってるわけだけれど。
フリーミアム号が出発するシリコンバレー。そこに住んでる普通の人にとって、毎月発生するコストで一番高いのは何だろう。
それは家賃である。
マンハッタンには及ばないものの、シリコンバレーの住居費は高い。シリコンバレーの中心地では1ベッドルームでひと月1200ドル以上する所がほとんどだ。会社をやめて起業する人でさえ口をそろえて「給料が無くても家賃さえ払えれば…」と言う。
昔俺が住んでたアパートの隣の部屋は間取りがベッド一つ分狭かった。その部屋に引っ越せば家賃が月に25ドルは安くなっていたはず。Dropboxは月に20ドル払えば100GB使える。Evernoteは月に5ドルでプレミアム会員になれる。ベッド一つ分大きな部屋に住むか、毎月25ドル貯金するか、クラウドおいしいです、になるか。
今のは極端な話だけれど、「毎月コストが発生するビジネスモデル」は、必ず「ユーザーにとって毎月コストが発生する、他のもの」との競争になってしまう。別にそれがクラウドだろうが車の保険だろうが月に一度の豪華なディナーだろうが関係ないのだ。
ほとんどの人にとって、「お金」は有限なのだから。
そして「時間」はもっと限られている。
例えばQuoraはStack OverflowやYahoo! Answers等の質問回答サイトと比べられているが、会社の見解ではなく個人的にQuoraの一番の競争相手はTwitterやFacebookだと思っている。FacebookやTwitterやQuoraは「暇つぶしに」「リアルからそれほど離れていない空間で」「何かを読んで」過ごそうか、という時のためのもので、
が異なるだけだ。人は一日に何時間も「暇つぶしに」「リアルからそれほど離れていない空間で」「何かを読んで」過ごそうかな、と無意識に考える訳ではないので、その時間を奪い合っているんだ。
位置情報サービスのFoursquareも、機能的に競合するGowallaやFacebook Placesだけと戦ってるわけではない。「新しい場所にいる時間」においては、位置情報アプリたちはInstagramと競っているのかもしれない。普通のiPhoneユーザーが、新しい場所に来て、そこで一度だけiPhoneを取り出したとする。そのユーザーは記念にInstagramで写真を撮るかもしれない。写真に気を取られてチェックインは行われないかもしれない。
それは「出会う系」(出会「い」ではない)のサービスも同じで。俺の友達はソーシャルグラフの上で人を繋げるWondershakeやMiepleといったサービスを作っているけど、こういったサービス同士だけが競争してるんじゃない。暇な休日に「趣味が合う女の子に会いたいな」と思う時間は、「趣味が合う女の子に、会えるようになりたいな」と表裏一体なんじゃないか。外に出ずに、昔の俺のようにYoutubeを見てギターを練習するかもしれない。Cookpadを見て簡単な料理を練習するかもしれない。はたまた海外で理想の女の子に会えるようになるため外国語学習アプリを起動するかもしれない。
携帯ゲーム、電子書籍、音楽配信サービスですらそうだ。やれPSP対DS対スマホやら、やれiPad対Kindle対Androidやら、やれiCloud対ダウンロード楽曲といった騒ぎ。でも「電車に座って暇な時間」を奪い合うのはスマブラ並の乱闘で、携帯ゲームだろうが電子書籍だろうが音楽配信だろうが関係ないんだ。
ユーザーはあなたが思うほど直接の競合製品を気にはしていない。気にしているのは起きている16時間を何に使うか、小遣いをどう使うかである。本当の競争相手は同じタイプの時間とお金を奪い合う相手である。
意中の人はもう落とされている
俺が一生懸命楽しませようと色々しても 一歩引いた感じで愛想笑いの様な表情しかしないのに 同僚のイケメンが話しかけた時のあの笑顔 次第にボディタッチが増え気が付けば二人ででかける仲に —Vipperな俺:ちょっと気になる子が目の前でモテ男に口説き落とされてる光景を見る絶望感
だらだらと書いてしまったが、俺が言いたいことはこうだ。
「スタートアップは速く動かねばならない」とよく言われる。だが機能的に競合相手がいない「新しいタイプの製品」の場合は少し時間をかけてでも機能を完璧にしてからローンチしたほうがいいのではないか。Colorの最初のバージョンの二の舞にはなりたくない。
でも正直なところ、そう考えてるうちにユーザーは奪われてると思ったほうがいい。
繰り返すが、時間とお金は有限だ。あなたの作る製品がユーザー様から時間かお金を頂く事で成功するのなら、あなたはGoogleやFacebookやTwitterやZyngaやQuoraやFoursquareやInstagram…といった星の数ほどいるスタープレーヤーから奪わないといけない。あなたの製品が出会う系なら出会う系、写真なら写真、位置情報なら位置情報のプレーヤーだけと戦うのではない。
アプリ量産状態の2011年、ユーザーのネット使用量は満タンに近い。正直なところ、俺は生産性を上げるためFacebookのニュースフィードから完全に人を消し去っているし、Twitterでは一人もフォローしてないが、それでもまだ時間が足りない。殆どの人はアプリ•サービスに一日何時間も消費してない、というか出来ない。
そしてその限られた時間とお金は、Facebookなどのスタープレーヤーに持って行かれている。2010年の調査では、アメリカの全てのインターネットの利用時間の8分の1がFacebookだったという。さらに、そのFacebook利用時間の4割がソーシャルゲームだったという。
さらに困るのは、スタープレーヤーは世界のトップクラスのエンジニアを囲い込み、サービスをより早く開発するために巨額の投資を行なっているという現実。
あなたが考えてる「直接の競合相手」は弱そうだから、時間をかけて製品をローンチしてそいつらを完全に負かせよう。
…と思う一日ごとに、スタープレーヤーは凄い勢いで先に進む。
スタープレーヤーからユーザーの時間とお金を奪うのは、一日ごとに難しくなるんだ。
たとえあなたの製品がどんなにスタープレーヤーの弱点を突こうとしても。
今日5割完成したアプリをローンチするのと、一ヶ月後7割完成したアプリをローンチするのなら、今日のほうがいいかもしれない。現にこの記事を書く一ヶ月前、Facebookはビデオチャット機能をリリースしてなかったし、Google+もリリースされてなかったのだ。流行に敏感なユーザーは同じ時期にローンチされたスタートアップよりも、FacebookビデオチャットやGoogle+に時間を割いてしまっただろう。
勝てる方法はただ1つ。とにかく早くローンチして、スタープレーヤーより速く動くことだ。ミニ四駆の肉抜きのイメージで、スピードで勝てるまで機能は削らないといけない。
速く動き、スタープレーヤーが苦手なタイプの時間とお金を奪うことだ。FacebookやTwitterは3年間ほどもの凄いスピードで製品の開発をし、「暇つぶしに」「リアルからそれほど離れていない空間で」「何かを読んで」過ごそうか、とユーザーが思う時間を食いつぶした。それはもともと、Googleというスタープレーヤーが苦手な分野だった。最初のうちはGoogleでもユーザーはその時間は潰せただろうが、いつのまにかユーザーにとってその時間はFacebookとTwitterのほうが有意義になった。しかしFacebookとTwitterがあれほど速く動かなかった場合、Googleがその時間もユーザーを虜にしてしまったかもしれない。Google+がFacebookやTwitterより先にリリースされてしまっていたかもしれない。
最近のB2CならInstagramは凄くいい例だ。友達の写真を、特にWebに最適化された形で見れるのはFacebookというスタープレーヤーがいたが、そうでなくモバイルで日常風景を中心とした写真を撮る時間を狙ったわけだ。これを書いている現在、Instagramは自前でWeb上のインターフェイスを作ってないし、友達のタグ機能もつけていない。
B2BはB2Cに比べて楽なところもあるだろうが、B2BがB2Cの競争と同じくらい激しくなるのは時間の問題だと思う。今回の「ソーシャル」で膨れ上がったTech Bubbleがはじけたらほとんどの才能はB2Bに群がるのではないか。現に俺はPalantirというB2Bのスタートアップで働いていた6ヶ月間で、金融業界のためのソフトウェア開発の競争が激しくなってきたのを目の当たりにしている。
俺は起業したことはないし、現在起業するつもりはないけれど、Quoraで働いていてスピードの重要さを痛いほど実感している。俺はデザイナーとしてQuora Shuffleという機能をリリースしたけど、とにかく早く出せ、早く出せ、早く出せという先輩からのチャットのメッセージ通知でデスクトップが一杯になったのを覚えている。
大学時代の友達の名言によると、「大人しい男は大人しい女を好む。大人しい女も大人しい男が好きなことが多いが、そういう男を待っているうちにもっとアグレッシブな奴に落とされてしまう。大人しい男は自分を磨いている場合ではない。アタックするんだ。」だそうだ。
大人しい男の競争相手は他の大人しい男だけではなく、コーラの競争相手はペプシだけではないように、スタートアップの競争相手は全然違う所で違うことをしているスタープレーヤーかもしれない。
有能な起業家は毎朝目が覚めたらこう考えるそうだ。「ぶっちゃけ、誰も私の作ってる物など必要としないだろう。」それを大前提に、今日どんな手を打つか頭を捻るそうだ。
人に毎日使ってもらえるような「普通のもの」を作るのは、本当に難しい。
こんな当たり前のこと、見落としながら運転してる人がいそうなので叩かれるの覚悟で書いてみました。